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  • 2018年12月26日
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「みなしご病」LCHと向き合うために。LCH研究の過去と今

患者さんが少なく、専門とする医師も少ない。あまりよく知られておらず、診断に時間がかかる…こうした特徴を持つLCH(ランゲルハンス細胞組織球症)は、ときに「みなしご病」と呼ばれることがあります。実際、いしゃまちの記事でLCHという病気のことをはじめて知った方も多いのではないでしょうか。

世界でも日本でも、LCHについての研究はどんどん進められており、LCHは少しずつ「みなしご病」ではなくなりつつあります。

今回は、LCHを取り巻く日本の状況について、京都府立医科大学の今村 俊彦先生に解説していただきます。(いしゃまち編集部)

※本記事は、一般向け医療情報サイト「いしゃまち」からの転載です(元記事はこちら)。

今村俊彦 京都府立医科大学 医学研究科 小児科学

みなしご病(Orphan disease)って何?

LCHの発症率

みなしご病(orphan diseaseという言葉をご存知でしょうか?

患者さんがとても少なくて(rare disease)、製薬企業などが治療法の開発などに取り組むメリットが得られにくい病気を指す言葉です。

“誰にも相手にしてもらえない病気”というイメージですが、世間にあまり知られていない病気でも、実際に罹患されている患者さんにとっては重大な問題です。

でも、詳しいお医者さんも少ないですし、有効な治療法の開発も進まず、利用できる社会資本も少ない、という困った状況に陥ることが多々あります。

なぜ、LCHは“みなしご病”といわれるのか?

LCHは小児期に頻度が高い病気ですが、それでも小児100万人あたり5人程度の発症率で、日本で年間6070例の発生と言われています。各都道府県で年間1-2名の発生ですので、“rare disease”であるといえます。

小児の急性リンパ性白血病が年間日本で500例程度の新規発症がありますから、随分差がありますね。この珍しさが、“みなしご病”になってしまった第1の要因です。

第2の要因は、LCHの病気としての特殊性です。最近の研究で、LCHは造血器腫瘍(血液のがん)の仲間であることが明らかになりましたが、以前はがんの仲間であるのかどうかも定かではありませんでした。また、白血病などと比べると、命にかかわる事は少なく(中には、命にかかわる非常に重症な患者さんや、長期的な併発症を残す方もあります)、経過も軽いものから重いものまで多彩です。そのため、小児血液腫瘍医にとって診断や治療が難しく、関心も集めにくい点があったかもしれません。

日本でのLCHの治療研究の歴史

日本でのLCH治療研究の歴史

日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ(JLSG)

“みなしご病”であるLCHの治療をより良いものにしていくために、1996年、京都府立医科大学小児科の今宿晋作先生を中心に、日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ(JLSGが設立されました。

JLSGでは、LCHを造血器腫瘍と考え、その重症度(主に病気の広がり)に応じて、抗がん剤とステロイドホルモンによる治療(化学療法)を考案し、臨床試験を計画しました。

そして、日本中のLCHの患者さんを診療していた施設の医師に声をかけて参加してもらいました。こうして、多数のLCHの患者さんに、施設ごとに異なった治療ではなく統一された治療を受けていただき、その結果を解析し、LCHの治療がより良いものになるよう改良を重ねました。

1996年に開始した臨床試験であるJLSG-96は、その後改良されてJLSG-02となり、日本の多くの小児期発症LCHの患者さんが、この臨床試験に参加されました。

※臨床試験:統一した治療を行い、効果や副作用の有無について情報を集めながら治療をすること。

日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)・日本小児がん研究グループ(JCCG)

その後、日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)・日本小児がん研究グループ(JCCGが設立されるにあたり、JLSGの行ってきた臨床試験は、JPLSG/JCCG内のLCH委員会が引き継ぐことになりました。後継として計画・実施された臨床試験(LCH-12)には、日本のLCH患者さんの多くが参加されています。

小児期のLCHはもはや“みなしご病”ではなくなりつつありますが、成人患者さんについては、まだ十分な診療体制が整っていない部分もあります。

今後は成人患者さんの診療体制をより良いものにしていく事が課題であると思っています。

より良い治療法の開発に向けて

JLSGは、LCHの患者さんを診療している日本全国の医師と一緒に、よりよい治療法の開発のために取り組んできました。

こうした治療法の進歩のためには、“LCHという病気がどうして起こるのか?”ということ(発症のメカニズムといいます)が明らかになる必要があります。

近年、この発症のメカニズムが、遺伝子解析技術の進歩により徐々に明らかになってきました。

最近の研究では、LCHの細胞にはBRAF(ビーラフと読みます)という遺伝子の異常が約半分ぐらいの患者さんで見られ、これが病気になる原因になっているということが分かってきています。BRAFは細胞の増殖に関係しているのですが、異常のあるBRAFは、LCH細胞の無秩序な増殖を引き起こし、その結果、LCHという病気になるようです(詳細は『「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」 ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)の正体は何?』にて解説しています)。

このように原因となる異常がわかると、その異常に応じた新しい治療法が開発されることがあります。LCHに関しても、この異常なBRAFの機能を抑えるお薬(分子標的薬といいます)が開発され、化学療法でうまく治療できない患者さんに投与したところ、LCHがよくなったという報告が見られるようになりました。抗がん剤とは違う、こうした分子標的薬が、これからのLCH治療の中心になる日がくるのかもしれません。

いずれにしろ、かつて“みなしご病”と言われたLCHですが、今は決して“みなしご病”ではなくなってきています。そして、よりよい治療法の開発のために、活発に研究がおこなわれています。

今村俊彦 京都府立医科大学 医学研究科 小児科学

平成6年 京都府立医科大学医学部卒業後、京都府立医科大小児科に入局。京都府立医科大学附属病院、国立舞鶴病院(現舞鶴医療センター)勤務を経て、京都府立医科大学大学院に入学。乳児白血病の研究に従事し、医学博士を取得後、松下記念病院小児科勤務を経て、アメリカ合衆国シカゴ大学病院へ留学。帰国後、京都府立医科大学小児科助手、その後講師となり、現在に至る。

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