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  • 2019年4月11日
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LCHの晩期合併症 ~5年、10年、20年後~

ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)や小児がんなど、こどもの病気を取り巻く問題のひとつに晩期合併症があります。病気自体の治療が終わっても残り続ける晩期合併症は、患者さんがずっと付き合っていかなければならない問題です。

「ずっと続く問題」と聞くと、患者さんやご家族は心配になるかもしれませんし、周囲の方はかわいそうと感じるかもしれません。でも、適切なフォローを受けることで、晩期合併症があっても元気に暮らしている方たちはたくさんいます。今回も、国立成育医療研究センター 小児がんセンターの塩田曜子先生の解説記事で、その様子を知っていただければと思います。(いしゃまち編集部)

※本記事は、一般向け医療情報サイト「いしゃまち」からの転載です(元記事はこちら)。

塩田曜子 国立成育医療研究センター

LCHの勢いがすっかりおさまり、病気の治療が終わったあとにも、ずっと残っていく問題のことを「晩期合併症」「晩期障害」と表現します。

化学療法による「早期」の副作用(たとえば、注射の翌週まで嘔気が続いた、一時的に肝機能の数値が上がった、など)のようにすぐに解決する問題とは異なり、「晩期」の合併症は、年の単位で進行していくものや、ずっと変わらず一緒に過ごしていくような症状のことを指します。これには、病気そのものによって引き起こされたもののほか、薬剤などの治療自体が原因となるものも含まれます。

1.どこにあったかな

晩期合併症には、さまざまな項目が挙げられます。特にLCHはあらゆる部位に病変を生ずるため、「かつてどこにどのような所見があったか」によって、注意すべき事柄が異なります。治療中からみられるものだけでなく、治療後しばらく経ってから明らかとなるものもあり、患者さんごとに慎重に経過を追っていくことが大切です。

頻度の多いものについて、表にまとめました。たくさんありますが、人それぞれ、なので、全てを心配する必要はありません。

LCHの主な晩期合併症

2.主な晩期合併症

i. 皮膚の瘢痕

LCHの湿疹やおできの部分に、ひどいびらん(ただれ)や潰瘍を生ずることがまれにあります。「長い間じくじくして、とても治りにくかった」という場合、皮膚の傷(瘢痕)や、毛髪が生えないままの部位(永久脱毛)として、一部の範囲にずっと所見が残り続けることがあります。

ii. 骨

LCHの骨の再生はとても良好です。しかし、小児の場合、まさに骨が成長していく時期であるため、時間経過とともに次第に問題がはっきりとしてくる、という特徴があります。

たとえば、骨病変の部分に骨折を生じた際などには変形、左右差を認めることがあります。椎体病変(背骨)の場合には、数年経つと多少の側彎(背骨が左右に曲がった状態)を呈してきますが、ほとんどの場合、日常生活には支障をきたすことはありません。

これらは5年、10年という長い時間をかけて変化してきます。ゆっくりと見守っていき、程度によって整形外科と相談していきます。

iii. 歯

顎骨(あご)の溶骨病変では、永久歯が抜け落ちてしまうことが経験されます(歯牙欠損)。

iv. 中耳炎

LCHの中耳炎が治ったあとも、聴力が気がかりな例があります。定期的な耳鼻科受診と聴力検査をおすすめします。

v. 内臓

肺や肝臓の病変によって引き起こされた臓器の機能障害に対し、ずっと対処し続けなくてはならないことがごくまれにあります。

vi. 頭の中の問題

中枢神経リスク部位

LCHと診断された患者さんのご家族には、いつも頭の中を横からみた絵を少し描いてお話ししています。中枢神経に関連した晩期合併症は、頻度はまれですがLCHにはとても特徴的です。特に、中枢神経リスク部位の骨に病変がみられた症例では気を付けて見守っていきます。すこし知っていることで早く変化に気付き、次の対処につながれば、と思います。

①内分泌ホルモンの異常

脳下垂体から分泌されるホルモン

視床下部-下垂体茎-下垂体という場所の特徴を知ると、内分泌ホルモンのことがよくわかります。

頭の中心部の、ちょうど眼や耳の奥の位置にある「視床下部」と「下垂体」は、小さくてもとても重要な脳の一部です。

このふたつをつなぐ下垂体茎(または下垂体柄)に、LCHはなぜかとても発生しやすいという特徴があります。茎が太くなり、ときには上下に広がって視床下部や下垂体にまで腫瘤が及んでいきます。

この小さな部分の評価には、頭部MRI画像がとても重要です。

視床下部

生命維持にとても重要な役割を担っており、自律神経系の調節、体温調節や摂食の中枢として、また、感情や情動とも密接に関係しており、大脳皮質の調整の中枢としても重要です。

また、さまざまな内分泌ホルモンの働きをつかさどっており、尿量を調節する抗利尿ホルモン、子宮収縮ホルモン(オキシトシン)などの体の一部のホルモンを生合成する神経分泌細胞が存在しています。

下垂体

胎児期に下垂体が形成されるとき、別々の前後の組織が合体してひとつの下垂体が完成されていきます。そのため、下垂体の前葉と後葉は全く違う構造や機能を果たしています。

下垂体前葉では、成長ホルモンや性腺刺激ホルモンをはじめ、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンなどのたくさんの重要なホルモンが作られています。一方、後葉ではホルモンは作られることはなく、ここには視床下部で作られ下垂体茎を通ってやってきた抗利尿ホルモンが主に貯留しています。いわば、前葉はホルモン工場、後葉はホルモン倉庫のような役割です。

これらのホルモンは、必要なときに必要なだけ分泌され、わたしたちの日々の生活や年齢に応じた成長を正しく調節してくれています。

 

LCHの晩期合併症として代表的な中枢性の「尿崩症」は、尿量の調節ができず大量の尿が排泄される病気です。下垂体茎が腫大したために、抗利尿ホルモンが視床下部から下垂体後葉までたどりつけないことによって生じます。1日に数リットルという多飲多尿の症状を呈する尿崩症は、LCHの初発症状としてだけでなく、晩期合併症としても起こりえます。

尿崩症の発症はとても急で、「ここ何日か、とてものどが渇いて異常に水を飲むようになった」という様子です。ホルモンの補充療法(内服薬、点鼻薬、鼻スプレーなど)を毎日行い、上手に調節していきます。

この場合、下垂体茎が腫れる原因はLCHの腫瘍のかたまりです。そのため、腫瘍がそれ以上大きくならないように、同時に化学療法も行っていきます。

尿崩症が起こるしくみ

そして、成長ホルモンなどの下垂体前葉のホルモン分泌にも影響が及んでいないか、様子を見守っていきます。小児の成長曲線は、身長の伸びだけでなく、思春期の発育バランスの評価にもつながるため、半年から1年ごとの記録をおすすめします。

これらの「視床下部-下垂体茎-下垂体」という場所の問題については、内分泌ホルモンの専門医がとても力になってくれます。足りないホルモンの補充療法を、必要な時期に適切に行って体調を整えていきます。

②中枢神経変性症

LCHの発症から数年経ってから、ごくまれに「神経変性症」という病態を生ずる例があります。多くはLCHの診断から数年後に、微細なMRI画像の異常が認められるようになり、ゆっくりと進行して、さらに数年かけて何らかの神経の症状がみられるようになっていきます。主に小脳、ときに大脳の一部に変化を生ずることにより、運動機能だけでなく、学習障害なども心配となります。

原因として、おそらく免疫の異常反応が関与していると考えられてきました。ごく最近、LCH細胞と同じ遺伝子異常をもった脳の中の細胞がみつかったと報告され、世界中のLCHの専門家の注目を集めています。今後さらに研究が進むことにより、詳しく病態が解明され、予防法や治療法の開発へとつながっていくことが期待されます。

 

これらの中枢神経に関連した合併症、すなわち、視床下部や下垂体の問題、そして神経変性症は、LCHの診断時からすでにみられることもありますが、多くは治療が終わり、数年、あるいは10年経って、忘れたころにおきてきます。特に、かつて中枢神経リスク部位の骨に病変があった、LCHの再発を経験した、なかなかLCHが治らず治療が大変だった、という患者さんは年に1、2回の定期検診を受けておくと安心です。

海外のガイドラインでも、LCHの治療を始める時期に病変が多発していた患者さんについては、年に1回の頭部MRI検査によるフォローアップが推奨されています。

vii. 薬剤による問題

LCHをしっかりと抑え込むことがなかなか難しい症例では、長期にわたるステロイドホルモンの内服治療が必要な場合があります。ステロイドは、眼(白内障・緑内障)、骨(骨粗鬆症・大腿骨頭壊死)、筋力低下、免疫力低下、高血圧、高血糖、肥満などなど、多くの副作用が知られており、注意が必要な薬です。ときには治療中に体重が10-20kg以上も増えてしまい、メタボ問題に悩まされることがあります。

ほかにも、通常の化学療法だけでは治療がうまくいかない治療抵抗性の例では化学療法の強化が必要となることから、抗がん剤による臓器への負担、造血機能への長期的な影響が心配されます。そのため、このような例ではLCHが治った後も定期チェックが行われます。

3.人それぞれ、長期フォローアップを

LCH患者さんの調査結果から、再発例では晩期合併症がより多くみられることがわかってきました。そのため、再発や重大な晩期合併症を防ぐよう、しっかりとLCHの治療を行っていくことが重要です。そして、それぞれの患者さんの状況に応じて、おこりやすい晩期合併症に注意しつつ、長期にフォローすることが大切とされています。

LCHの発症時の病型やその後の経過にもよりますが、治療が終って何年経っても、なるべく1年に1回は、何か体調変化がないか、こころも体も成長しているか、場合によっては頭部MRIには微細な所見がないかなど、定期チェックをおすすめしています。何か困ったことがあったら、その都度一緒に考えて対処していきたいと思います。

4.10年後、20年後の大先輩たち

LCHと過ごしてきた10~20年後の大先輩たち

久しぶりの外来では、みなさん、こんなことを話してくれました。

5.おわりに

晩期合併症の話題は、ご本人やご家族にとっては知れば知るほど怖くなってしまうのではないか、と心配します。でも、大先輩たちは、みんな自由で楽しそうです。そして、とっても頼もしい。なんとかなるよ、と教えてくれています。みなさんに、これからもぜひいろいろなことに挑戦していってほしいと願っています。

塩田曜子 国立成育医療研究センター

国立小児病院血液科に7年間、閉院の2002年まで勤務。同年開設された国立成育医療研究センターに患者さんたちとともに引っ越した。現在、小児がんセンターで医長を務める。2014年に「こどもサポ―トチーム」を立ち上げ、小児がんのこどもたちの療養生活を多職種と連携し支えている。

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